慰安婦問題を巡る日韓のゴタゴタの行方は?

1993年8月4日、当時の宮沢政権の河野洋平官房長官が有名な『河野談話』を発表しました。第二次世界大戦前から大戦中にかけて日本軍が設けた慰安婦制度の中で自分の意思に反して慰安婦にさせられ、痛ましい生活を送った女性達に対し、日本が国として責任を認め謝罪したものでした。韓国政府はこの談話を受けてこの問題は決着したという姿勢をずっと取っていました。しかし韓国の民間団体は違いました。日本政府は謝罪していない、賠償していないとずっと言い続けていたのです。これはある意味本当のことでした。日本政府は日本の法的責任を認めていませんでした。1965年の日韓請求権協定にて法的問題は解決済みという姿勢だったからです。そして同じ理由で国家賠償もしませんでした。しかしアジア女性基金を設け、民間から寄付金を募って慰労金のような形でお金を渡しました。そうした解決策に最も声高に反対して来た代表的な韓国の運動組織が韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)です。彼らは今でもそうですが、以下のようなことを要求しています。
1. 日本軍「慰安婦」犯罪事実の認定
2.真相究明
3.国会決議による謝罪
4.法的賠償
5.歴史教科書への記録
6.慰霊碑と史料館の建設
7.責任者処罰
そして韓国では慰安婦を原告として、政府が慰安婦問題解決のために日本と交渉しないのは違憲だという訴訟が起こされました。そして2011年8月30日、韓国の憲法裁判所は政府の行政不作為は違憲だという判決を出しました。それを受けて当時の李明博政権は日本の野田政権との交渉に乗り出します。この交渉がどこまで進んだのかはよく分かっていませんが、結果の出ないうちに野田政権が倒れ、交渉は安倍政権が引き継ぐことになりました。韓国でも新しく朴槿恵政権が誕生しました。
朴槿恵大統領がやったのが有名な「告げ口外交」でした。外国を訪問しては首脳会談の場で日本が慰安婦問題で謝罪も賠償もしていないと言い回りました。それが功を奏したのかどうか分かりませんが、2015年12月28日、両国は合意に至り、日本の岸田外務大臣と韓国の尹(ユン)外交部長官が共同記者発表を行いました。いわゆる日韓合意です。
そこでは日本側が責任を認め、おわびと反省の気持ちを表明し、日本の拠出金で韓国政府が財団を設立して元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うとした上で、この問題が最終的かつ不可逆的に解決したことを確認しました。そして日本大使館前の慰安婦像撤去に向けて韓国が努力することが確認されました。

日韓の間では政治的決着がついたかのようですが、慰安婦問題についてはまだまだ論争の決着がついたとは言いがたいようです。日本が具体的に何をして、どんな責任があるのかそれぞれ人によって意見が違うのです。まず一番話題になるのが強制連行の有無です。2014年8月5日、朝日新聞は日本軍が朝鮮半島で女性を慰安婦にするために強制連行したという吉田清治という人物の主張を取り上げた記事を取り消しました。これは日本人にとって大きなショックでした。日本人の多くはそうしたことがあったのだとなんとなく思っていたのでしょう。しかしそのようなことはなかったと改めて確認されたのでした。実のところ強制連行がなかったというのは93年の河野談話当時から政府としてはそう言ってきていました。しかし当時大手の新聞が強制連行があったと報道し、それをずっと取り消してこなかったのことから、ある種のコンセンサスが出来ていたように思います。
強制連行はなかったという結論は出ましたが、それ以外でまだ論争はあります。日本は何も悪いことはしなかったと言う人から、日本には法的な責任があると言う人までいます。慰安所は業者が運営していました。そして慰安婦を集めたのも業者です。日本は監督はしていましたが、それ以上のことはしていません。それどころか女性を騙す悪質な業者がいるようだから気をつけろという通達まで出していました。ですから日本には何の責任もないというわけです。またアメリカ軍が1944年に捕虜にした業者と慰安婦に尋問を行った記録が残っていて、その中の「慰安婦とは売春婦以外の何ものでもない」という記述から、彼女らは単なる売春婦だという主張も多く見られます。一方で日本に責任があると言う人は、そもそも慰安婦制度を作ったのは日本軍だし、業者には身分証を持たせて慰安婦を集めに行かせたのだから、彼らのやったことに責任はあるだろうと言います。そして慰安婦の輸送を行ったことや、取り締まる法律が不十分だったことは当時の法律や国際条約に違反していたと主張します。
また日本と欧米の認識のギャップも大きいようです。当時女性達は業者から前借金をして、その借金を返済するまでは身体を拘束されましたが、それは当時よくあった年季奉公の一形態でした。だから日本人にしてみれば当たり前の歴史の一コマでしかないのですが、向こうの人は、自分の意思に反して売り飛ばされ、自分の意思でやめられないのは奴隷だと考えるようです。

日韓合意の前、この問題は解決済みだから、または日本は謝罪するようなことはしていないのだから、新たな合意など結ぶ必要はないという意見が多かったように思います。ですから合意が結ばれた時はかなりのショックが広がりました。またもう一度韓国に対して謝罪するなんて、安倍政権は何を考えているのだという意見が多く見られました。しかし次第にこの合意の意味を解析していくと、その考え方も変わっていきました。まず重要なことは日本が法的責任を一切認めていないことです。あくまで道義的責任を認めてお金を出すだけなのです。そしてそのお金は国家賠償金でありません。言ってみれば慰め金のようなものに過ぎないのです。そして最終的かつ不可逆的に解決したと謳い、癒やし事業のための財団を韓国が作り、韓国に運営を全て任せたことが高い評価を受けるようになりました。つまり日本はお金を出してしまったら、もう後は全て韓国の国内問題にしてしまえるのです。日本国内では安倍政権はうまくやったという評価が定着していきました。
しかし一部には安倍政権に批判的な人たちもいます。日韓合意の中の声明は国際的には日本が非を全面的に認め、公式に謝罪したとしか受け取られないという主張です。法的責任がないことや、強制連行もなかったことなど全て吹っ飛んでしまうというのです。歴史には日本が国家犯罪を犯したと刻まれてしまう、それはどうしても回避したいという考えです。

合意から時間が経つに連れ、日本国内では話題の焦点は日本大使館前の慰安婦像だけになっていきました。日本はやるべきことを全てやり終え、今度は韓国がその義務を果たせというわけです。合意の文言では韓国が慰安婦像撤去に向けて努力をすることになっていました。しかし韓国ではこの問題が最終的に解決したと考える人はあまりいませんでした。日本が法的責任も認めず、拠出するお金も賠償金でないのなら、結局日本は何も悪いことをしたとは認めておらず、我が国が当然受ける権利を有している謝罪も賠償もしていないと考える人が多かったのです。韓国政府も世論の前に及び腰でした。慰安婦を撤去するように支援団体に要請すれば、世論の反発は必至でした。ましてや強制撤去などに出れば、どんな混乱を引き起こすか分かりません。政府が撤去に向けて何か努力をしたという兆候は全く見られませんでした。そしてそのうちに朴槿恵大統領のスキャンダルが噴出し、ますますそれどころの話ではなくなっていきました。朴大統領の弱体化に伴い、慰安婦合意を破棄しろという声はますます高まっていきました。そして今度は釜山の日本領事館の前に新たに慰安婦像が設置される事態になりました。これに対して釜山の当局者は一旦は像を撤去しますが、抗議や苦情の電話が殺到したため、一転設置を認めて市民に対して謝罪までしました。これに切れたのが日本政府でした。日本政府は対抗措置として大使と総領事を日本に帰国させました。これは非常に厳しい措置で、韓国政府やメディアもここまでやるとは思っていなかったと衝撃を隠せずにいました。日韓合意後両国の関係は改善に向かうどころか、さらに悪化の一途を辿っていったわけです。

朴大統領が弾劾され失職した後、職務を代行している黄教安首相は「韓日両国は合意の趣旨と精神を心から尊重し、実践しなければならない」と述べ、今のところ韓国政府の立場は日韓合意維持です。しかし大統領選の後は大きく変わってきそうです。次の大統領選に立候補すると見られる人達は軒並み日韓合意の破棄や再交渉を掲げています。ですから新政権発足後は韓国側から何らかのアクションが起きると見ておいた方がいいでしょう。その時日本としてはどんな反応を示せばいいのでしょうか?恐らく一番ありそうなのは、そんな要求に応じる気は毛頭無い、これはもう最終的かつ不可逆的に終わったことだと突っぱねることでしょう。日本国内ではもう韓国など相手にするなという声まで上がっています。韓国は合意は破棄したと言い、日本は合意は有効だと言い続け、そのままずっとこの問題は放置されることになるのではないでしょうか。両国関係も冷え切ったままでしょう。
いま慰安婦問題は海外に戦いの場を移しつつあります。韓国の市民団体が海外のあちこちで慰安婦像を建てようとしています。現地在住の日本人や日系人も負けてはおらず、建設反対の運動を精力的に行っています。それが功を奏して建設阻止に成功したところもあります。またすでに建てられた慰安婦像を撤去するように裁判に訴えている人たちもいます。アメリカのグレンデールの慰安婦像を巡る裁判はすでに最高裁まで行っています。そして異例なことに日本政府もこの裁判に対して意見書を提出しています。政府もこの歴史戦でかなり積極性を見せ始めているように思えます。即日キャッシング 注意点

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